興が乗ってきたのでもう一個書こうと思う。同じ料理つながりの話だ。
先ほどの話で私が料理ができないことは周知のことであると思うが料理というものをした中で最も身の危険を感じた話をしよう。
私が一人暮らしを始めてから間もなくして唐揚げを作ろうと思ったときのことだ。初めての一人暮らしに浮かれ、今日は何を作ろうかと浮足立っていた時のことだ。
結論から言うと唐揚げ自体は何の問題もなくできた。味も良好、なんだおれ料理できるじゃんなどと思っていた。しかし私は気づいていなかった。
料理とは「片付けまでが料理であるということを。」当時の私は油の【捨て方】を知らなかった。熱いものを冷やすなら水を入れればいいのでは?そう思った彼はあろうことかさっきまで使っていたなみなみまで注げられている油の爆心地にコップ一杯分の水という名の核爆弾を投下してしまったのだ。そこから先は地獄だった。爆音とともにあたりに油が飛び散る。水族館のイルカショーでみる水しぶきのように激しく、盛大に。突然の出来事に本人は自分が何をしでかしてしまったかもわかっていない様子だった。自分の皮膚に200度にも迫る液体が襲い掛かってきたときに初めで気が付いたのだ。
「高温の油に水を注いではいけない。」
ということに。この人生20年生きているわけだがそんなこと、誰も教えてくれなかった。みんなはどうやって処理しているんだ?そんなことを考えている間にも自らに襲い掛かってくる火の粉はさらに勢いを増しながら勢力を拡大していく。織田信長が瞬く間に天下をその手にしかけた時のように奴らは勢いを増し、コンロはもちろん、壁や床、ついには換気扇にまで届かんばかりの勢いであった。
齢19歳。夏が終わり肌寒くなってきた秋の夕暮れ時。カーテンを閉め世界から遮断されたその部屋の中心。まるでそこだけがスポットライトで照らされているかのように明るいその中心にはもう沈下することなどできないほどに膨張されたその現象と、それをどうすることもなくうなだれている一人の少年。
誰が悪いわけでもない。油に水を注いではいけないと教えてくれなかった両親も、唐揚げを純粋に作りたいと思った少年も誰も悪くない。
無知によって引き起こされたこの事故はこれから渡り歩くであろう世の中の理不尽さを物語るには充分であった。
この少年はこれから何を思い、何を感じ、どう考えていくのか。一人の少年の物語を記した成長の記録である。